大人にならざるを得なかった子どもたち

平成29年度の調査では、統合失調症やうつ病などの精神疾患を抱える人は日本に400万人以上存在しています。
また、この数は年々増加していることが特徴です。(令和2年度の調査結果もそろそろ出るはず…)
そのうち外来通院しているのは約390万人と、ほとんどの人が社会の中で生活しています。

そんな中で、近年まであまり取りあげられなかった問題が精神疾患を抱える家族を持つ子どもへのケアです。

最近では、ヤングケアラーという言葉を使って取り上げられることも増えてきました。

ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものことを指します。
この中には、親の精神疾患のみではなくその他さまざまな事情も含まれます。

日本では従来、家の中の事情に対して外から働きかけることを良くないとする文化がありました。
そのために、子どもであっても家事・家族の世話など家のことをするのは当然である、という考えが根強く残り、子どもが早いうちから大人にならなければならないという問題が見ないふりをされていることも多かったのです。

さらに恥の文化も強く、実際は誰にでも起こりうることであるにも関わらず、未だ“精神疾患=恥ずかしいこと”と考える人もいることが現実です。
精神疾患の家族がいる=身内の恥=家の中でなんとかしないと、となってしまうパターンも多いようです。

しかしながら昨今やっと、子どもが子どもらしい時間を生きられないことへの問題意識が高まり、社会の中でヤングケアラーへの支援が求められるようになりました。

子どもが大人をケアすることで発生する影響

生活へのケアからの影響

日常生活の中で、実際に行動の伴うケアの場合は子どもが子どもの活動をする時間が取れないことが大きな問題となります。

例えば
・保育園のお迎えなど、小さな兄弟の世話をしなければならない
・自分がごはんの用意や洗濯をしないと、家の中がぐちゃぐちゃになる
・目を離すとどうなるか分からないので、自分が家に居なければいけない
・兄弟と生きていくためには、仕事をしないといけない

これらのようなことがあると、子どもは自分自身のための時間が取れなくなります。
友達と遊ぶ、部活に所属する、勉強をする、1人のゆっくりした時間を持つ……
子どもが子どもらしくある時間が取れず、大人にならざるを得ない。
そのために、多くの子どもたちが安心の出来る場で失敗を繰りかえすことで身につける自信や、同年代との付き合いの中で得るコミュニケーションスキルなどを得られないまま大人になってしまうのです。

こころへのケアからの影響

ヤングケアラーの担うケアは、行動の伴うものばかりではありません。
特に精神疾患を抱える家族へのケアは子どものこころへの影響が大きなものとなります。

例えば
・親の気持ちが不安定なのは自分のせいなのかもしれない
・負担をかけないように常に細心の注意を払って生活する
・多くを望まない、自分の期待は伝えない
・家族が悪いと思われたくない、自分がガマンすればいい

自分にも思うことはあるけれど、家族の気持ちのケアを優先する。
自分が言ったどんな言葉が、家族の不安定な部分に触れるか分からない。
そんな中で自分のしんどさや辛さ・言いたいことを奥にしまいこんでしまうと、大人になってからも自分の意見や気持ちを言葉にできなくなってしまいます。

また、自分が誰かにしんどいと言ってしまったら家族が周りから悪く言われてしまうかもしれない、家族と離されてしまうかもしれない。
そう思うとどんどんと逃げ場がなくなって、自分で抱え込むしかなくなってしまうのです。

今その中にいるあなたと、大人になったあなたへ

今まさにその渦中にいるというあなたは、まず誰か信頼できる大人を探してください。
学校の先生でも、近所の人でも、習い事の先生でも誰でも大丈夫です。
大人もいろいろなので、もしかしたら嫌なことを言われることもあるかもしれません。
ごめんなさい。そんな時は、もう少し、別のところでも探してみてください。

あなたの「しんどい」や「大変」はダメな気持ちではありません。
大人のしなければならないことを、子どものあなたがする必要は決してありません。
すぐには変わらないかもしれませんが、少しでもあなたの負担が減ると良いと思います。

昔からその中に居て、大きくなったあなたはとても大変だったと思います。ここまでよく生きてこられたと思います。
もしかしたら、今も生活の中でしんどいことがあるかもしれません。
自分の気持ちが分からなくなってしまったり、つい周りを窺ってしまったり。
人を頼ることが出来なかったり、気持ちが不安定になりやすかったり。
そんなことがあるときは、あなたのこころと身体がSOSを出しているのかもしれません。

少し立ち止まって、周りを見回してみてください。
誰かに頼れそうであれば、自分の気持ちを少しお話してみるのもいいかもしれません。
知っている人に話すのはちょっと難しいな……というときはカウンセリングを使ってみるのも1つでしょう。

ヤングケアラーは「小さい時から家事などのスキルが身に付くから良い」「良い子、よく出来た子、えらい」などと言われることもよくあります。
私は、本人が「スキルが身に付いた」と言うのであればいいと思います。
そうでないならば、それは誰のための言葉なのでしょうと感じてしまいます。

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