友達のように仲良しな母と娘のほほえましい関係?
近年、まるで友達や姉妹のように一緒に遊ぶ親子の姿がよく見られるようになりました。
特に母親と娘の間によくみられる関係であり、友達母娘(ともだちおやこ)と呼ばれているのをよく見ます。
「今時を分かってる母親」「私に似たかわいい娘」と感じ、洋服を交換したり、ペアルックを着たり、一緒に買い物や旅行に出かけます。「友達と遊ぶよりも母親といる方が楽しい」と感じる子もいるようです。
平成24年にNHKによって行われた「中学生・高校生の生活と意識調査」では、79.2%の母親が”何でも話し合える友達のような母親”でありたいと答えています。
このような友達母娘を目指している母親は「私は娘を一人前とみなしている」と思っている方が多いのですが、実はそうではない状態も多いことはご存じでしょうか?
一見仲良しで何の問題もなさそうに見える親子の間には、本人たちさえも気づいていない共依存の問題が隠れていることがあるのです。
共依存ってどんな状態?
共依存の定義と歴史
共依存という言葉は、未だ明確な定義が成されていない曖昧な概念となっています。
共依存的な関係性に陥っている人にとって、自己犠牲を伴った献身を行うことによる自分の価値や存在意義の確認はとても重要です。表面的には相手のために行っていることが、実は自分のための行動であると気づくことがまず必要であるかもしれません。そのうえで、どう変えていくのかをカウンセリング場面ではお話できるかと思います。
現在、日本での使われ方としては
・依存症者に必要とされることに存在価値を見いだし、ともに依存を維持している周囲の人の状態
・自分と特定の相手が、互いにその関係性に過剰に依存し、その人間関係に囚われている状態
などが挙げられます。
どちらも本質的には同じことを指しているのですが、今回のような関係性の共依存の場合は2点目の使われ方が分かりやすいかもしれません。
母娘関係の共依存
このような共依存関係を、一卵性母娘、母娘カプセル、とも呼びます。
親子関係はそもそもが依存的なものとなっています。
生まれたばかりの赤ちゃんは、親に依存しなければ生きていけません。
また、幼児期には保護者をいつでも戻れる安全な場所として捉え、いろいろなことに興味を持って取り組める環境が必要となります。
ここまでは、子どもが健やかに発達していくために保護者は絶対的に必要であり、子どもは親に依存している状態が続いています。
しかし、小学校から中学校・高校にかけて、子どもは教師などの他の大人たちと出会い、同年代の友人と出会い、少しずつ親に頼らず社会の中で自立して生きていけるように成長していきます。
親から距離を置いて、親とは違う考え方を持ち、自分らしさを見つけていくのです。
これは、親離れ・子離れという言葉でこれまで日常の中に溶け込んできました。
ここでお互いが適切な距離を取ることが出来なくなってしまうと、共依存へとつながっていきます。
親は今まで自分を頼っていてくれた子どもが離れていくことに不安や寂しさを感じ、子どもを自分の支配下においてコントロールしようとしてしまうことがあります。
特に母と娘の場合は、自分がお腹を痛めて生んだ同性の子どもであることから子どもを自分の分身であるように感じ、「あの時自分はこうしたかった」という過去の自分の後悔や理想を押し付けてしまっていることも少なくありません。
子どもの選んだ服に対して「それはちょっと派手すぎない?」
子どもの選んだ進路に対して「私はこっちの方がいいと思うけど」
子どもの選んだ彼氏に対して「あの人は私あんまり好きじゃないな」
子どものためを思って友達のように相談に乗っている風なのですが、裏には「私から離れないで」というメッセージが込められており、子どもが自分で選択することを許さない無自覚なマインドコントロールになってしまっています。
ここで「うっとうしい」「放っておいて」と子どもが自分から離れられるとまだ好機があります。子ども自身が自分は親と違うということを認識して、自立しようとしている動きが感じられますよね。
しかし、共依存に陥りやすい子どもは親からのメッセージを敏感に感じ取り、「親には自分がいないとダメなんだ」「たった一人の親なんだから」「うっとうしいなんて言って見捨てたらかわいそう」と自分の気持ちに蓋をしてしまいます。
その結果、親からの依存に子どもが拍車をかける共依存状態が出来上がってしまうのです。
また、子どもの側としても1から友人関係を作って周りに気を遣って過ごすよりも、ずっと一緒に過ごしていて自分のことを分かってくれているように感じる親と共に過ごす方が楽だと感じて、その状態に甘んじてしまうこともあります。これに対して、親が適切な距離感で対応することが出来ると良いのですが、共依存になりやすい素地があり、それを受け入れてしまうとやはり共依存関係となってしまいます。
そうしてそのまま親と友人のように過ごし、外での人間関係を構築することを避け続けていると、将来的に社会に出ることとなった時、うまくやっていけない・周りとぎくしゃくするといったことが起こることは容易に想像ができるでしょう。
これも1つの親子の共依存のパターンなります。
子どもに依存しやすい親の特徴
では、友達親子のような子どもに依存しやすい親にはどのような特徴があるのでしょうか。
自己肯定感が低い
自分に自信が持てないことで、子どもを使って自分の価値を確かめようとします。
本来、自己肯定感は自分の中で見つけて作っていかなければならないのですが、自分の中でそれを見つける・作ることは出来ないと感じ、代わりにそれを子育てを通して、ひいては子どもを通して見つけていこうするのです。
子どもをしっかりと育て上げる、自分の理想の形にすることによって、自分の価値も認められると感じるため、少しでも子どもが自分の思っている方向と異なる方向に行こうとすると、それを正すためにコントロールしようとします。
さらに、子どもは幼いころには「お母さんじゃないとダメ」と全身で自分を求めてくれるため、自己評価が低い親であっても承認欲求が満たされます。
その承認を忘れられず、再び求めているため子どもに依存的になってしまうのです。
人間関係がうまくいっていない
実母やきょうだいとの関係、義父母との関係、ご近所や友人との関係など、いろいろな人との関係がうまくいかず、孤立感を深めて子どもに依存してしまうことがあります。
特に、配偶者との関係がうまくいっていない場合が多くみられます。
子どもを自分の味方に引き入れて、「お父さん(お母さん)はダメだから、2人で頑張ろう」となってしまうと親から子どもへの依存のみではなく、より共依存に陥りやすいと考えられます。
また、夫婦関係が円満であれば親の持つエネルギーは子どもと配偶者に分配されますが、そうでない場合は全て子どもに向いてしまうこととなり、そのエネルギーの強さから依存的な関係になりやすくなってしまいます。
趣味や楽しみがない
子どものことを何よりも優先し自分の趣味や楽しみがないと、子どもが離れようとした時に自分のもとには何もなくなってしまうように感じます。
そのために子どもに置いて行かれる自分を被害者に仕立てあげ、子どもに「見捨てたらかわいそう」と思わせることで、子どもの選択を支配してしまうのです。
子ども以外に生きがいがないため、いつまでも自分の手元に子どもを置いておきたいと願ってしまいます。
共依存関係にあった子どもはどうなる?
親からの依存を受け、それに応えて育ってきた子どもたちには、どのような特徴が表れるのでしょうか。
自分の気持ちが分からない、自分で決められない
常に親の顔色を窺って生活してきたことから、周りの顔色をうかがわずにはいられず、他人に気にいられようと自分の気持ちを隠してしまいます。
さらに、これまで親の選択に従って生きてきたため、自分に自信が持てず、周囲の人に依存し、常に漠然とした不安や恐怖を感じることもあります。
実家依存症
学校を卒業し、社会人になったとしても精神的に自立ができずにいつまでも実家から離れられなくなってしまうことがあります。
また、結婚しても配偶者よりも実家を優先する実家依存症になる可能性もあります。
親はそんな子どもを諭すどころか、喜んで受け入れるため、配偶者や配偶者の両親との間に確執が生じ、離婚に繋がってしまうことにもなります。
自分の子どもも支配しようとする
人は自分が育てられてきた環境しか経験していないために、いざ自分が子育てをしようとした際に、親からされたのと同じように自分の子どもを支配してしまうことになり得ます。
親との共依存関係から抜け出すには?
自分を肯定する
共依存関係の中で育った子どもは自己肯定感が低くなりやすいと考えられます。
そのままでは自分の気持ちに蓋をして、自分では何も選べないままとなってしまいます。
そうして、親に言われるままにしておけば失敗しても親のせいに出来るため、その状態に甘んじてしまい、共依存から抜け出せなくなっているのです。
まずは、自分で何かを選択することから始めてみると良いかと思います。
簡単なことからで構いません。夜ご飯は何を食べたいか、どの服を着るか、今日は何をするか。
自分で選択して、行動して、その結果を受け止めましょう。
そして、自分で選択したことを自分で認めてあげてください。
これは、これまで共依存の中にあって自己肯定感が低くなっている人にとってはとても難しいと思います。
これまでたくさん否定されてきて、否定してきたのですから。
最初は本心からそう思えなくても構いません。
少しずつでいいので、行動した自分を「頑張ったね」と労わってあげましょう。
ありのままの自分を認める感覚である自己肯定感が低いと、感情に振り回されてしまったり、完璧主義になりやすかったりと、生活の中で生きづらさを感じたり、人との関係がうまくいかないことが多くなります。自己肯定感を高めるために、まずは小さな約束から始めてみましょう。
自分の世界を大切にする
共依存関係にある時は、親と自分だけで世界が完結してしまっています。
そのため、家庭の外にも自分が所属する世界をたくさん作ってください。
これをしていると楽しいな、幸せだな、と感じられることならなんでもいいです。
趣味でも、仕事でも、恋人や友達といる時間でもかまいません。
そしてその時間を大切にしてください。
物理的に距離を取る
物理的に近い距離にいると、精神的な距離も取りづらくなります。
まずは、実家から離れることも1つの方法です。
親からはきつく反対されるかもしれませんが、あなたがそうすると自分の意思で決めたならば突き通しましょう。
周りに相談する、カウンセリングを受ける
自分1人で考えていても答えが出ない場合は、信頼の出来る友人や、第三者に相談することも1つの方法です。
本当は親が変わってくれるのが1番なのですが、親はあなたのためだと思っているのでそれは難しいかと思います。
カウンセリングでは、あなたのお気持ちや状況をゆっくりとお聞かせ頂きます。
そのうえで、どうするのがあなたにとってより良い状態になっていくのかを一緒に考えることで、あなたが1歩を踏み出す力になれればと思います。
もし、親との関係で「何かしんどいな」と思うことがありましたらそのままガマンせず、一度ご相談頂ければと思います。
カウンセリングもあなたにとって、1つの外の世界となり得ます。
親は一番身近な他人です。ずっと仲良くできたらいいのかもしれないけれど、そうはいかない場合もあるかと思います。それは決してあなたのせいではありません。親子関係で悩みがあるときは、1度お気軽にご相談ください。