家族療法の概要

家族という集団を一つのシステムとして考え、その構成員がそれぞれ相互に影響を与え合っている
という、家族システム論を基にして行われる心理療法です。
そのため、問題行動や症状を訴える人だけに問題があるのではなく、家族システムにおける相互
作用に問題があり、その問題を維持してしまうシステム状態を変化させることで、問題行動や
症状が改善したり寛解するというものです。

一般システム論とシステムズ・アプローチ、家族システム論

1945年、オーストリアの理論生物学者ベルタランフィが発表した理論が一般システム論です。
この、一般システム論は、システムを相互に作用しあう要素からなるものとし、上位のシステム
から下位のシステムまで、複数を持ち、それらも相互に作用しながら全体的な目的の達成のため、
相補的バランスの中で成り立っているとしました。
また、このシステムは、機械などの無機的なシステムだけでなく人間関係などの有機的なシステム
にも当てはまるとしました。

この一般システム論をカウンセリングに適用したものをシステムズ・アプローチと言い、家族関係
に当てはめたものを家族システム論と呼びます。

家族という全体の問題とみなす

個人心理学では、問題の起こっている人の内面に着目していきますが、家族療法では、家族全体に
問題があると考えるため、家族の構成員一人ひとりの内面よりも、家族のコミュニケーションなど
が相互に与える影響に着目します。
そのため、問題の起こっている人のことをクライエントとは呼ばずに、たまたまシステムの問題
が表面化した人として捉えIP(Identified Patient;患者と見なされた人)と呼びます。

IPや家族は、家族間の問題や、IPの抱える問題を解決するための努力を怠っているわけでは
なく、それぞれがそれぞれのやり方で解決しようと努力しているため、結果として問題が維持・
強化されていると考えます。

そのため、このシステムに問題が起こっているのは、誰が悪いからだ、何が原因だとは考えず、
今ここ、そしてこれからに目を向け、IPや家族が持っている問題解決能力が発揮できるよう
になることを目的とします。

相互作用が作り出す悪循環

何かの原因があって、結果があるという考え方を、直線的因果論と言います。
私たちは、この直線的因果論でものごとを考えがちです。ところが実際は、なにかしらの原因
によって生み出された結果は、別の原因を作り出し、新たな結果を生み出すというように、
循環しています。
この考え方を円環的因果論と言います。

家族の関係においても常に家族はそれぞれに影響しあっています。
その相互影響の中で、その家族特有のパターンやルールが生まれます。
このパターンやルールが、構成員それぞれにとって無理のないものであればいいのですが、
どこかにIPが問題行動を起こすという結果に結びつく悪循環が潜んでいます。
その潜んでいる悪循環を見出し、変化を促したり、悪循環を断ち切り、良循環を生み出すこと
で、結果的にIPの症状や問題行動が解決されるのです。

家族療法とカウンセリング

家族療法は、現在、20以上の学派があり、理論や手法も多岐にわたります。
その中でも、MRIアプローチと呼ばれているものが主流となっています。
この手法は、家族間のコミュニケーションパターンを重視しており、家族のコミュニケーション
パターンから悪循環や例外などを探し出し、コミュニケーションの変化を促すことで、悪循環
を良循環に変化させることができ、IPの問題も改善されるといったものです。
また、家族だけに囚われず、組織や対人関係などに目を向け、家族以外にもシステム論を活か
そうという動きがあり、それらは、ブリーフセラピーやナラティブセラピーなどと呼ばれて
います。

家族療法は、家族関係に起因する症状であれば非常に有効で、不登校や神経症、鬱、心身症
など、幅広い対応が可能です。
しかし、心の面に目を向けないため、しばしば変化を促すための行動を強要しているように
感じられたり、問題は家族関係だとカウンセラーが囚われてしまったりすることがあり、注意
が必要です。