物語療法の概要

人は、自分が所属する文化や慣習、常識、教育など、様々な影響を受けています。
そういった影響のもとで得た認識という枠組みで物事を理解し、
自分なりの意味を見出す。と、物語療法では考えます。

そのため、物語療法では、クライエントの問題も、独自の価値観や所属する
社会の慣習・常識などに支配されている。と、考えます。
これは、他の心理療法では、個人の抱える問題は、
その個人が問題の解決の為にした行動や受け止め方に問題があると考えるのに対し、
物語療法では、その個人の所属する文化、慣習、常識、場所などを基にした、
自分自身や家族の物語を持っていると考え、
その物語を構成させるために選ばれる要素とその組み立て方に問題がある
と、考えます。

ドミナントストーリーとオルタナティブストーリー

我々は、日々、様々なことを経験し、刺激を受けながら生活をしています。
しかし、全ての刺激や経験を覚えているわけではなく、
成長をしてきた過程、場所、文化、慣習、常識などに影響を受け、
自分の価値観やこれまでの成育歴(ストーリー)に合うように、
無意識的、恣意的に選別し、組み立てています。

この、組み立てられたストーリーは、クライエントにとっては真実であり、
「こうだ!!」と信じていることとなります。
このストーリーをドミナントストーリーと言います。

カウンセラーは、ドミナントストーリーを聴きながら、
個々のエピソードや、そのエピソードとエピソードの間にある
”選別されなかったエピソード”の有無、別の角度で見たらどうなるかなどを
会話の中で探り、ストーリーを分解し、
問題となっているストーリーと、とってかわるストーリー(オルタナティブストーリー)
の再構築をできるように手伝っていきます。
そうすることで、クライエントは新たな認識をできるようになり、
これまでとは違ったストーリー展開を選択できるようになるのです。

人が問題ではなく、問題が問題である。

ナラティブセラピーでは、クライエントの抱える問題を外在化することがよくあります。

クライエントが問題を話すとき、往々にして問題が本人の一部もしくは、
本人の内部にあると見なしてカウンセラーに語ります。

これは、その人の抱える問題が、その人のアイデンティティの一つとして認識をされている
と考える事が出来ます。
そのため、カウンセラーは、問題をクライエントのアイデンティティから切り離し、
クライエントが、問題によって影響を受けている存在として認識する手助けをします。
これにより、クライエントやその周囲が、
問題を個人から切り離し、みんなで対峙し、退治するべき相手として考え、
語ることにより、選択の幅を広げたり、クライエントとその周囲の人との間に
起こった葛藤を減らすなどの効果が起こるのです。

カウンセリングとナラティブセラピー

これまで、カウンセリングでは、実験や研究結果という
エビデンス(証拠)に基づいたカウンセリングが重視されてきました。

しかしながら、人が物事を考えるとき、全てデータや事実だけに
基づいて考えるのではなく、それぞれの文化や常識などを基にして考え、
受け止めるため、どうしても実験結果などから外れたことが起こってしまいます。
そこから、クライエントの受け止め方、考え方をストーリーとして理解し、
共に考えていくという形の物語療法が考えられたのです。
そのため、現在、カウンセリングでも、物語療法の姿勢や考え方が取り入れられ、
専門知識やエビデンスに基づいた視点を持ちつつ、
ナラティブな視点で受け止め、理解するなどといった変化が生まれてきています。